【勝手にふるえてろ/綿矢りさ】松岡茉優主演で映画化!綿矢節炸裂のジェットコースター系恋愛小説


綿矢りささんの『勝手にふるえてろ』を読みました。

ネタバレはしていませんが、一部本文を抜粋して感想を書いているのでお気をつけください。

面白かったです。

数時間であっという間に読める手軽さとスピード感ある展開に文体。

でも別に軽いわけじゃないんです。けして内容が薄いわけじゃない。

まさに『蹴りたい背中』『インストール』を書いた綿矢りささんの作品だなあという感じ。


物語は始終主人公ヨシカ(独身処女26歳経理課勤務の拗らせ女子)の一人語りで進んでいきます。

この語りがいちいち面白い。

あ~~わかる、その感じ、わかる~~というツボを刺激されます。

なんというか、スクールカーストの下から数える方が早いグループで青春時代を過ごした女子への共感力がありすぎる笑

そしてその雰囲気って、実はスクールカースト上位だと思われる子も密かに感じていたりするもの。

だからこそ綿矢さんの作品は多くの人に読まれているのではないでしょうか。

みんなが実は心の奥底に持っている劣等感や退屈さ、卑屈さを表現するのが上手。

それもさわやかに。

最初にその表現力を感じさせてくれるのが、冒頭ヨシカが会社のトイレで悩んでいるシーン。

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いまや音姫はマナー化していて、鳴らさないとむしろまわりに聞かせたい変態かと思われるくらいで、ちっともおもしろくないから、私は会社のトイレでどいつもこいつも音姫を使っているのをいいことに自分だけボタンを押さず彼女たちの音姫にまぎれて思いきり無修正で致すのを昼休みのささやかな楽しみにしていた。いまは他人の音姫に嗚咽の音を消してもらっている。

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会社のトイレに立て篭もるくらい悩み、涙を流している状況にも関わらず

日本女子トイレ音姫事情に思いを馳せるヨシカ。

そして面倒だしみんなやってて馬鹿みたい、という理由から自分だけ音姫ルールから外れるヨシカ。

でもきっと彼女は両隣に人がいて、音姫を流しているときにだけ、自分は音姫を使わないのだ。

もしどちらかのトイレが空いていたら、きっと彼女も自分で音姫を流すのだ。ルールに従って。

なぜならやはり人に自分の無修正の音を聞かせたい変態だと思われたくないから。

その中途半端な反骨精神が、大人になりきれていない(とニからも評される)ヨシカを冒頭から表現できていて面白い。

そしてその反骨精神(のようなもの)は、実はみんな持ってると思う。

みんな音姫とか面倒だし馬鹿みたいって思ってる。でも自分だけやらない勇気もない。

そんな微妙な自分のちょっとしょうもない部分を、普段気にもしないトイレの「音姫」で描いているのがすごい。

ネタバレはしませんが、

ヨシカが憧れのイチ(自分に人を好きになる素敵さを教えてくれた人)か、

別に好きじゃない(でも人を好きになる素敵さを自分が与えてあげられる人)の

どちらを選ぶのか。どちらも選ばないのか。

個人的には最後のヨシカの選択にはあまり興味がありませんでした。

ただずっと綿矢節を読んでいたいという気持ちが強かったです。

だからヨシカよまだ選択しないで~物語を終わらせないで~と思っていました笑

ストーリーというよりも、ヨシカのこじらせた思想で紡がれる語りがいちいち面白くてくすっと笑える、

でもダサくて幼稚なヨシカへの共感性もあるので自分への後ろめたさも刺激される作品。

最後に、私が心に残ったシーン。

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でもいまの私はそれほどは無垢じゃない。心は弱いままだけれど、痛みに耐えるほどお人よしではないのだ。

いままでの私は自分にたいしてぶりっこをしていた。自分はからかわれてもくやしいだけで、いざ相手に仕返しをして悪く言おうとしても、悪口が思いつかないような可憐な女の子なのだと思いこんでいた。事実昔はそうだったかもしれない。でもいまはちがう。

もしばれたとしても会社を辞めさせられてもいいと思っているから、守るべきものがない。よし勝てる。これならかならず勝てる。

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学生時代と今の社会人数年目の自分を比べて、自分は強くなった、勝てる、と評するヨシカ。

正確には強くなったのではなく、悪くなった。守らないといけないものがないから、投げやりにもなれると悟ったヨシカ。

わかる、と思いました。

学生時代はささやかなクラスの中の自分のポジションや、友達や彼氏からの見え方が本当に大事だった。

そのポジションを守るため、自分が築き上げた自分のイメージを守るため必死だった。

だからスクールカースト上位の子達に愛のないイジリや扱いをされたとしても、ただグッと我慢できた。無になれた。

成績のことで先生に何か言われても従順になれた。

自分の感じた怒りや相手への悪意よりも、もっと大事なのは自分を守ることだったから、平気なフリができた。

でも大人になってそれがちょっと変わってきた。

昔ほど人の目線は気にならないし、自分のポジションだって別に守ろうと思わなくなった。

(会社の中のポジションは仕事で成果をあげればいいし)

なので会社で嫌な先輩がいたら堂々を悪意を向けることもできる。

クライアイントの無理難題には抗議することができる。

これが大人になるってことなのか…あ、だからおばさんってあんなに強いのかな…とか考えました笑

と、ここまで感想を書いてきて今気づきましたが、『勝手にふるえてろ』

あんまり恋愛小説としては楽しめなかったです。

綿矢さんのするどい表現力で、自分のちょっとジメッとした強さや弱さを見つめる作品。

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